前人未踏の挑戦が、チームを強くする――小惑星探査機「はやぶさ」プロジェクトチーム

前人未踏の挑戦が、チームを強くする――小惑星探査機「はやぶさ」プロジェクトチーム
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7年かけて地球に帰還してきた小惑星探査機「はやぶさ」。世界初の様々な偉業を支えたそのチームワークとは。JAXA(宇宙航空研究開発機構)宇宙科学研究所 宇宙航行システム研究系 研究主幹 月・惑星探査プログラムグループ プログラムディレクタ 教授・工学博士 川口 淳一郎さんに伺いました。

人類未踏の挑戦を、成功させるモチベーションが原点


プロジェクトチームが結成されたのはいつごろだったのか。

「小惑星探査機「はやぶさ」プロジェクトは小惑星から土壌サンプルを採集し、地球に持ち帰る(往復の宇宙飛行)ことを目的に、1996年に立ち上がりました。約7年間の開発期間を経た2003年にはやぶさを打ち上げ、2010年6月に7年間の調査飛行を終え、オーストラリアに帰還。飛行プログラムは終了しました。現在は持ち帰ったサンプルの調査をしています。現在までの15年間で、立ち上げ当初から継続してプロジェクトに参加しているのは約20名です」

大人数でプロジェクトを成功させるために、重要な要素とは。

「本プロジェクトは税金で成り立っています。そのため、成果を挙げ、国民に対して成果を還元することが1番の目的になります。アメリカなどの宇宙技術先進国に比べると予算規模などがまったく違い、日本の惑星探査技術は非常に遅れています。とはいえ、アメリカを追って技術開発を進めても、決して追い越せませんし、十分な成果は挙げられません」

「科学技術立国を目指すため、背伸びをし、誰もが認める成果を挙げること。トップに立つことで、リーダーシップも発揮できます。そのためには、人類がやったことのないことに挑戦し、成功させることが肝心です」

「同プロジェクトではどの国も成しえなかった、地球の引力圏外の惑星(異天体)と地球との往復宇宙飛行調査という壮大な目標を掲げ、プロジェクトチームの士気を向上させました。大きな目標に対してチーム一丸で取り組むことが、戦略にもなったと思います」

フェイス・トゥ・フェイスで、50人を束ねる

大規模プロジェクトを成功させるために、どうチーム体制を作っていったのか。

「プロジェクトチームの人数は各過程によって増減しますが、主なメンバーは約50~60名。半数がJAXA社員で、残りが外部メーカーの技術者などです。各メーカー(NECや富士通)の参加メンバーもJAXAの指示に従うだけではなく、老若男女、官民問わず、同等の立場での協力体制を構築していました」

「本プロジェクトでは各専門分野に沿ってサブチーム(イオンエンジン、カプセル回収、軌道計画など)が作られています。個人の開発経験・履歴を踏まえ、技術力・パーソナリティーが適切と思われる人材を採用したり、各企業からの人員を選出しました。実際のチームメンバーの特性や能力は業務を通して把握していきました」

50人もメンバーを束ねるために、情報共有で工夫した点は。

「コアメンバーは約50名ですが、それ以外にも多くの方が携わっていますので、情報共有が必要な人数は実はもっと多くなります。そのため1カ月~1カ月半に1度、全員が集まるミーティングを開いていました。サブチームごとにミーティングを密に実施し、サブチームのリーダーとプロジェクトの中心メンバーで構成したステアリンググループも作り、重要事項を決定していました。何か問題があればすぐに集まり、情報共有と改善策などを話し合いました」

情報共有は充分にされていたようですが、メンバー間のコミュニケーションは。

「情報共有と同様、コミュニケーションも充分に取っています。主な情報共有の場は全体/ステアリンググループによるミーティングでしたが、それ以外にもメーリングリストを使ったり、議事録や議事メモなどを保管した共有ファイルを自由に閲覧できるようにしていました。すべての情報がオープンだったわけではなく、重要な情報は一部メンバーのみが閲覧できるようアクセス制限をかけていました。デジタルとアナログの良いところを複合的に活用しています」

「フェイス・トゥ・フェイスのミーティングを多く持つことで、メンバーの意見を正確かつ迅速に吸い上げることができました。議論はなるべく小さな単位でやることを心掛けていました。ミーティングの規模が大きくなればなるほど、特に若い人が意見を出しにくくなりますし、想定された回答しか出てこなくなりますから」

川口さん

多くの人のスケジュールを把握しミーティングを調整する際に、工夫した点はあったのか。

「とにかく大変でした。同じイントラネットの中に全員がおらず、大学教授やメーカーなどの関係者が全国にいたので、調整は主にメールでした。フェイス・トゥ・フェイスが難しい場合はテレビ会議も活用していました」

充分な情報共有とコミュニケーションがあったからこそ、チームのモチベーションも向上し、プロジェクトは順調に進んだ。

「そうですね。当初設定した目標(地球への帰還)に対するモチベーションも高く、みんなが同じ方向を向いていると思います。全員がなんとか工夫して高いソリューションを生み出し、取り組もうという意識が高いですね」

「はやぶさのプロジェクトチームは特別で、「みんなのベクトルをそろえるためにすごく労力をかけた」という記憶はありません。それは初めから目標に対する深い共感があったからです。現メンバーの半数は打ち上げ後に参加したメンバーですが、それ以前にいた人達からの意思を充分に受け継ぎ、共有できていました。そういう意味ではフェイス・トゥ・フェイスのミーティングは非常に良い成果を挙げています」

水掛け論はしない、個人のミスを責めない

チームの意識やモチベーションも高く、雰囲気も良好だったのであれば、それを維持することの方が大変だったのか。

「サブチーム性を採用し業務の分担、明確化ができていたこともあり、メンバー同士の衝突はなかったように思います。あえて気をつけたとすれば、水掛け論をさせないことですね。例えば、エンジントラブルがあった場合、2、3日中には次の答えをださなければなりません。そのために不要な議論はせず、解決策としてきちんとしたソリューションになっていれば積極的に採用していきました」

「実際には、水掛け論をしている時間もありませんでしたが(笑)」

川口さん自身がチームを牽引する上でどんなところに気をつけたのか。

意図的に多くのアクションを投げかけました。プロジェクトでは、さまざまな人から改善策、解決策が出ることが重要です。もし何もアクションが出なくなれば、終わってしまいますから。ヒューマンエラーなどの失敗も叱ることはせずに、解決に向けたアクションを促すよう務めます。起きたことは取り返しがつきませんし、個人のミスというものはなくチーム全体の責任でもありますから」

何か問題が起きた場合、それは全体の責任ということはメンバー全員がプロジェクトを成功させようと努力している。

「そうですね。メンバー同士で自発的な支援やアドバイスを行うこともあります。専門分野を持つメンバーですので、分野を超えたテクニカルなアドバイスは難しいですが、若手メンバーで分からないことや自信がないことがあった際には、メーリングリストで質問を投げかければ、中堅やシニアからの積極的にアドバイスしたり、直接指導したりします」

「突発的なトラブルなどで人員が足りない時に、分野を超えてサポートに入るなど自発的に助け合っているののです。このプロジェクトのミッションはソリューションを見つけることですから、その点を大事にし、常に建設的な議論をするように心掛けました」

大きなトラブルを乗り越える経験が、チームを強くする

チームの一番の危機はどんなことがあったか、また解決策は?

「一度衛星との通信が途絶えたことがありましたが、別のチームが率先して解決策を出し、サポートしてくれたおかげで復旧できました。深夜3時ごろにイオンエンジンのトラブル(寿命)があった時も、交通手段が無い中全員が集まってくれ問題を解決できました」

みなさんのモチベーションの高さが伺える中、モチベーションが下がってしまった時に、それを上げるためにはどんな工夫をしたのか。

「両トラブルともメンバーのモチベーションはかなり下がったと思います。特に通信が途絶えた時は、非常にモチベーションは下がっていました。エンジントラブルの場合、はやぶさの状況は地球からも把握でき、改善策に対する反応が分かります。しかし通信トラブルの場合は、はやぶさがどうなっているかを把握できず、その状況が長く続くとプロジェクトの終了も視野に入ってきます」

「しかしそんな時も、『プロジェクトを継続したい』というみんなの思いは途絶えず、意図的に検討会議を多く設けました。解決策を出し続けていけば、プロジェクト自体は活性化し、それが実際の解決につながると考えていました。そのため常にとにかく何かアクションを起こし続けることが大事でした」

それほどの苦労があって、はやぶさの地球帰還を達成した。メンバーの達成感は想像を超えるものがあったのではないか。

「達成感は非常に高いですよ。全員が充分に満足していると思います。本プロジェクトの成果もしくは成功というのは0か1、つまり成功か失敗しかありません。このプロジェクトでは「地球に帰還する」という分かりやすい目的があり、それが成果として現れましたから、社内はもちろん外部からも認められています。独立行政法人の評価機構による最終評価はこれからになりますが、「はやぶさ2」の計画発表からも良い評価を得ていると思っています」

「達成感だけではなく、メンバーの成長も著しいですね。プロジェクトに携われた20代~30代の若い人は非常に良い経験を得たと思います。プロジェクトの立ち上げ当初はかなり若いチームでしたが、今では立派なチームになりました」


※小惑星探査機「はやぶさ」プロジェクトチームは、「ベストチーム・オブ・ザ・イヤー2010」(当時名称:チームワーク・オブ・ザ・イヤー2010)のグランプリチームとなりました。

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