「本当にしぼれる!」という驚きで、ミネラルウォーター市場を切り開く――「い・ろ・は・す」プロジェクトチーム

「本当にしぼれる!」という驚きで、ミネラルウォーター市場を切り開く――「い・ろ・は・す」プロジェクトチーム
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ミネラルウォーター市場で圧倒的な認知度とシェアを誇る「い・ろ・は・す」。ギュッと絞れるボトルのCMを見て誰もが驚いたのではないでしょうか。コカ・コーラを中心に清涼飲料水の分野でトップシェアを取りながらも、ミネラルウォーター分野ではヒット商品が無かった日本コカ・コーラ。他社との差別化が難しい同分野でゼロからヒット商品を産みだしたチームワークの秘訣とは。

日本コカ・コーラ株式会社 マーケティング本部ウォーターカテゴリー 統括部長の福江晋二さんとウォーターグループ マネジャ プロジェクトリーダーの小林麻美さんに聞きました。

「資源を減らす」「軽量化」の発想が生み出した「絞れるボトル」

――大ヒットとなっている「い・ろ・は・す」の開発の背景は?

日本コカ・コーラは、炭酸では「コカ・コーラ」「ファンタ」、スポーツ飲料では「アクエリアス」、お茶では「爽健美茶」と各カテゴリーで代表的なブランドがあります。しかし、市場が伸びているミネラルウォーターは、強いブランドを確立できずにいました。コンビニエンスストアで陳列していただけるような、しっかりとしたブランドを確立したいという目標が背景にありました。

――どのように開発を進めていきましたか?

2008年1月にミネラルウォーター市場の担当になり、まず電話帳ほどの厚さの資料を基にビジネス分析をしました。2008年5月、この市場でどうすれば成功できるのかをテーマにオフサイトミーティングを開きました。製造部門、研究開発部門、営業部門、広告代理店、コカ・コーラシステム内で海外における水ビジネス担当者など、あらゆるメンバーで終日議論をしました。

その中で環境部門から「環境」という切り口が出たのです。研究開発部門からは「資源を減らすために軽量ボトルを開発する中で、最軽量クラスのペットボトルが開発できそうだ」という意見が出ました。「環境」という切り口は面白そうでしたが、果たしてお客様が手にとってくれるのかという懸念がありました。

――「環境」に対するブランディングは、さまざまな企業が着手しています。

おいしいことや飲みやすさと採水地などのきれいなイメージを重ねる手法は、すでに他社がブランドを確立しており、勝負するのは難しい。一方でミュージシャンがエコイベントを開催したり、おしゃれなモデルがエコバックを持つなど、「環境にいいこと=かっこいい」という新しい兆しが生まれているとも感じました。

「資源を減らすため軽量化する」という切り口は、原材料の削減だけでなく輸送時のエネルギー使用量の削減にもつながります。調査でも「おいしくて環境にいい」というコンセプトはイメージが良いという結果がでたので、「これでいけるのでは」と感じました。ただ「環境にいい」ということをどう具体的に伝えるかが課題でした。

こうした中、10月に全国12のボトラー社から数百名が参加する新製品発表イベントがありました。パッケージも名前も未定の段階でしたが、壇上でボトルをタオルのようにぎゅっとしぼってみせたところ、大きな歓声があがりました。展示ブースには人が押し掛け「本当にしぼれる!」と驚いていました。

「環境にいいこと」を「しぼる」という動作があることで、インパクトをもって価値を伝えられると確信を得ました。使用原材料と輸送に伴うエネルギーの削減はもちろん、日本の狭い住宅事情やオフィス空間でかさばる空容器を小さくできることも好評でした。

い・ろ・は・すの細部にわたるこだわり

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――プロジェクトを進めていく上で困難や辛いことなどはありましたか?

名前とデザインが決まらない時期は辛かったです。100以上候補を挙げましたが、有意差をもって勝てそうなものにするのが大変でした。なかなか決定打がでず、中間報告時などに自分自身が満足していないものを人に紹介している間は辛かったです。

年の瀬も押し迫ったころ、クリスマスを返上してチームメンバーの家でミーティングを実施しました。ワインを飲みながら、フランクに語り合う中で、日本古来の仮名の並べ方の最初の3文字で“ものごとの基本”という意味を持つ「いろは」に「す」をつければ「ロハス」になるという案が出ました。

当時、ロハスは環境に良いことという意味合いで、8割ぐらいに認知されていました。アメリカ人の社長も「日本語でいうABCとI do LOHAS.という意味だ」というと、すぐに納得してくれました。

――ネーミングの面では、順調に進みそうだったのですね。

いえ、実は社内からは不安の声が多く挙がりました。飲料水は横文字のかっこいい名前が多い中、ひらがなでよく分からない名前という印象があったようです。しかし「い・ろ・は・す」は国産の天然水なので、ひらがなで日本の天然水ならではイメージを打ち出したいと思っていました。

デザインもなかなか決まりませんでした。今でこそ鮮やかなグリーンで定着していますが、賛否両論があったのです。自動販売機ではお茶といえば緑色、水といえば水色というイメージが定着しています。消費者を混乱させるのではないかという意見が多くありました。

CMのキャラクターは、水の市場で主流だった女性モデルや若い男性ではなく阿部寛さんを、音楽はおだやかさや真面目さではなく、力強いロックのイメージを採用しました。サンボマスターさんを起用し「世界を変える水」というイメージから「世界を変えさせておくれよ」というオリジナルの歌詞を作ってもらいました。コンビニに置かれる製品にしたかったので、CMでもコンビニの棚から選ぶシーンから始めました。

――その他、工夫した点は。

半透明の軽量なキャップにして、ラベルもはがしやすく薄いものにしました。段ボールのブランド名表記も墨一色とし、お客様の目に届かない部分も徹底的にエコに配慮しました。発売時は日本各地の名水地から厳選した北海道、山梨県、静岡県、富山県、鳥取県の全国5カ所で採水したおいしい天然水をお届けしていました。

2010年、九州・宮崎県(えびの工場)、今年は四国・愛媛県(小松工場)が新たな採水地に加わり、現在では計7カ所からできるだけ近くのエリアにお届けしています。それだけの採水地があるのですが、味は均一的にまろやかで飲みやすく、専門家でも採水地による味の違いが判断できないほど均一のレベルです。

――内容量がちょっと多いですよね。

「少しでも多いほうがふれしい」という声に応えたいという思いから、発売時には従来の500ミリよりも20ミリ多い520ミリとしました。さらに2011年3月からは555ミリでお届けしています。

背水の陣が、チームの一体感を駆り立てた

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――周囲からの抵抗がありながらも、進めたコツはありますか?

背水の陣だったということでしょう。個人的には、これでうまくいかなったら当面無理だと感じましたし、その場合は辞職する覚悟もありました。とにかく全力を尽くしていました。

1000の新製品から残るのは3つ程度で、翌年まで製品として残る確率はそれ以下というくらい、飲料市場は競走が激しいです。水なのでおいしさだけでは勝負にならない、社内外問わず誰でも簡単に理解してもらえる製品を意識しました。

それを体現したのがしぼれる軽量ボトルです。中身を劣化させず、飲みやすさを損なわない強度を守るには、今の形が最高形です。他社も軽量化に取り組み始めていますが、2009年から3年、12グラムを切るものは出てきていません。

製造ラインで製造でき、物流時に倉庫で何段積んでも大丈夫であり、自動販売機に入れてもへこまないなど、あらゆる制約を打破できるものになりました。海外のコカ・コーラを含めても、これだけ短期間に圧倒的なシェアをとった水ビジネスの例はなく「よくやったね」と言われています。海外でも「い・ろ・は・す」のコンセプトを踏襲したものが出て、同じようなCMイメージで展開している。強いブランドは、世界共通ということかも知れません。

――チームの雰囲気はどうでしたか?

仲が良く、ランチタイムもアイデアを出しあっていましたね。ブランド担当の3人で外に出ても結局、開発の話をしていました。周囲からのプレッシャーも大きかったのですが、チーム内で「いいよね!」「ここまでやってきたから大丈夫だよ!」とはげまし合ってきました。うまくいかなかったことを考えて、「会社に席なくなるかな」「大丈夫だよ」などと言い合ったりもしていましたね。

――今はブランドが確立され、さらに大きくというステージかと思いますが、今後については、どのようにお考えですか?

「い・ろ・は・す」発売の2012年には、3つの大きな取り組みを行いました。1つは、植物由来の素材を一部に使用した「プラントボトル」の導入です。「い・ろ・は・す」の発売から間もない時点でしたが、アメリカで開発が進んだ話を聞き、すぐに手を挙げました。

2つ目は1リットルサイズでのしぼれるボトルです。出勤前にコンビニで500ミリサイズの水を2本買う方を見てニーズを感じ、1020mlボトルの開発もかなり早い段階から進めていました。

3つ目は国産温州みかんエキスの入った「い・ろ・は・す みかん」の発売です。いずれも発売後すぐの提案だったことから「まだ早いのではないか?」という不安の声も多く挙がりましたが、早いうちに次の新しい提案をすることにこだわって先行開発を進めました。

社内の上層部に言われてから動くのではなく、早いと思われるくらいに先行して、チームが主体的に動けています。い・ろ・は・す みかん、1020ミリリットルサイズのどちらも売れており、うまくいっています。

1年目がブームのピークであることが多い中、「い・ろ・は・す」は2年目に大きく拡大し、3年目も出荷数が上がりました。シェアはさらに大きくなり、今までにないパターンです。最初は「大丈夫?」と心配してくれた人が、「『い・ろ・は・す』はもう大丈夫でしょ」と言ってくれるようになりましたす。今では逆に、僕らのほうが不安や危機感をもっているかもしれません。

――震災で水が注目されましたが、その際の取り組みはどのようなことがありましたか?

世の中に水がなくなり、水道水の摂取制限があった中、軟水で赤ちゃんのミルクにも使えることを意識しました。震災後、ホームページの訪問者数が5倍ぐらいに増えたのです。知りたい情報は「軟水なのか? 安心安全なのか?」という情報でした。

この際は、チームで動いていることを強く感じました。お客様相談室への問い合わせを共有してくれる担当者がいて、安全な採水地で採れた軟水であることを店頭ポスターを作ってくれる担当者がいました。コマーシャルも親子が登場するものに変え、イベントも乳幼児をお持ちの方とミルクを作るという内容で開催しました。ブランドが積極的に訴求してきたメッセージではない別の側面を伝えていくよう、各チームが務めました。

従来から、極めて厳格な品質管理で生産されています。日本の水道法で定められている水の分析項目は50くらいですが、弊社は独自で280以上の項目を定期的に分析しています。平時の検査に加え、震災後以降はより厳密な体制を敷き、放射性物質を検査しえちます。今までは大手メーカーならやって当たり前との思いから特にアピールしていませんでしたが、震災後は、メーカーとして消費者にこれらの情報を詳しく伝える義務を感じ、ホームページもリニューアルしています。

これからもお客様とコミュニケーションをとりながら、研究開発、製造からマーケティング、販売部門まで全体が1つのチームとして、安全でおいしくて環境にいい「い・ろ・は・す」の提供に取り組んでいきます。

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