新元素「ニホニウム」を発見した 理化学研究所──科学者が語る"研究を成功させるチームの条件"とは?

新元素「ニホニウム」を発見した 理化学研究所──科学者が語る
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「水兵リーベ、僕の船…」とブツブツ呟きながら必死で覚えた思い出のある人も多いのではないでしょうか? そう、中学高校の理科の教科書に必ず載っていた元素の周期表です。この元素周期表に、日本人が発見した新たな元素が記載されることになりました。元素番号113番。その名も「ニホニウム」です(正式な確定は2016年11月8日以降)。新元素の発見は、日本初のみならずアジア初となります。


この歴史的な快挙を成し遂げたのが、国立研究開発法人 理化学研究所 仁科加速器研究センターの森田浩介グループディレクターが率いるチーム。実は新元素発見に至るまでには、長い長い研究の道のりと、気が遠くなるほどわずかな確率の実験の繰り返しがあったのです。


新元素発見までにどのような苦労があり、森田さん率いるチームの面々は、何をモチベーションにその苦労を乗り切ったのか? また、こうした研究を成功させるのに必要なチームの条件とは? 森田グループの中心メンバーとして新元素発見に挑んだ森本幸司さん(写真中央)、羽場宏光さん(写真左)、加治大哉さん(写真右)の3人にお話を訊きました。

新元素は人工的に作られたもの

森本:ははは。そこからですね。元素はモノの根元なので、それがどういうものからできているのか、どういうものがあるのか、を研究することは研究対象としての"自然"を理解する上で、一番基本的なことです。今回発見した113番元素の寿命はわずか0.002秒と極めて短いので、現時点では人間の生活に直接関わることはありません。しかし、それは別として、まずはどんな元素が自然界にあるかを知ることは、純粋に興味深く、また未来の科学の発展のためにも意義のあることなのです。

DSC_5997.jpg仁科加速器研究センター 超重元素研究グループ 超重元素分析装置開発チーム チームリーダー 森本 幸司さん

森本:理論的には「何番まであるだろう」という予想は存在しますが、それは1つひとつ実験して確認しないと、本当にあるかないかはわかりません。

森本:113番元素のように重たい元素は、寿命が極めて短いので地球上には存在しません。宇宙のどこかの、元素が作られている現場で、一瞬存在することはあるかもしれないですね。

400兆回の衝突でできたのはたったの3個

羽場:元素の種類は原子核の中の陽子の数で決まるので、天然の元素の原子核同士を融合させればより重い元素ができます。113番は、元素番号30番の亜鉛の原子核を、83番のビスマスの原子核にぶつけて融合させる方法で発見しました。2003年9月から実験を開始。1秒間に2.4兆個の亜鉛ビームをビスマスに24時間、79日の間当て続け、ようやく2004年7月23日に最初の113番元素合成に至ったのです。

DSC_6058.jpg仁科加速器研究センター 応用研究開発室 RI応用チーム チームリーダー 羽場 宏光さん

羽場:ええ。その後も実験を行い、2005年に2個め、2012年に3個めの合成に成功。最終的には延べ575日で3つの113番元素の原子核を発見しました。衝突の回数は全部で400兆回にのぼります。

加治:原子核は大きさが1兆分の1cmとあまりにも小さく、ほとんど衝突しないんですよ。たとえ衝突しても融合する確率は極めてわずかですし。1兆分の1cmの的を狙うのは不可能だから、とにかく大量の亜鉛ビームをビスマスに当て続けるわけです。

DSC_6007.jpg仁科加速器研究センター 超重元素研究グループ 超重元素分析装置開発チーム 仁科センター研究員 加治 大哉さん

森本:1つの元素の大きさが野球場くらいだとすると、原子核の大きさは100円玉くらい。本当にスカスカの世界です。野球場の中にある100円玉にもう1つの100円玉を投げてくっつけようとする作業なので。それはまあ、そもそもなかなか当たらないですよね(笑)

森本:検出器内に運ばれてきた新元素の陽子が113個あれば、できたことを証明できるのですが、とても数えられません。そこで新元素がα崩壊を起こすこと、つまり「元素が壊れていくこと」を利用して証明しました。

森本:はい。113番元素の場合、検出器の中で、極めて短時間に4回のα崩壊を起こしているのを検出できました。
つまり、113→111→109→107→105という順番で崩壊していったわけで、これにより113番元素ができたことを証明したのです。

新元素発見は国の科学技術力が世界最高レベルであることを示す

森本:もちろんです。高性能の装置がないと絶対に見つけられない。装置の技術がカギを握ります。この実験では、線型加速器RILAC(ライラック)で1秒間に2.4兆個もの亜鉛原子を光速の10%にまで加速し、ビスマスの標的に照射。気体充填型反跳分離器GARIS(ガリス)を用いて、113番元素を計測上妨害となる粒子から可能な限り選り分け、検出しました。

順に言うと、
  ・亜鉛のイオンを取り出す技術
  ・それを高速で加速し、亜鉛ビームを安定して照射する技術
  ・標的にたくさんの亜鉛ビームを当て続ける技術
  ・できたものを選り分ける分離装置の技術
  ・分離したものを検出する技術
  ・検出したものを電気信号処理して解析する技術…、と
必要な技術は幅広く、それぞれの装置が世界トップクラスでないと実験を成功させることはできません。
これらの装置は全て研究者が自ら設計。製造も国内メーカーが行いました。

羽場:ええ。最近の新元素の発見は、まさに発見した国の科学技術力が世界最高レベルであることを示します。こうした研究は、立派な加速器や分離器があってこそできるものですから。新元素発見は、冷戦時代にアメリカとソ連が国の威信を賭けて競争し先行し、その後、ドイツのグループが107番から112番までを連続して発見しました。
113番は、そのドイツと日本が競い合って、日本が勝利したわけです。その後、アメリカとロシアが手を結んで、114番以降118番までを次々と発見したと報告しているのですが。いずれにせよ、113番の発見により日本の科学技術力の高さを示すことができたのではないかと思います。

加速器グループと実験グループが協力しあって研究

森本:まずは大きく、加速器を開発してビームを出す側のグループと、そこから出てきたものを分離・検出し実験するグループに分かれます。我々は後者のグループ。森田浩介先生がグループリーダーです。今回の研究は、加速器グループと我々実験グループが協力しあって成功させたものです。

羽場:実験グループについては、2003年に実験を始めてから13年の間にいろいろなメンバーが出たり入ったりしていて、全員で48人となります。森田先生がグループリーダーとしてチームを牽引し、私たち3人の他に所内外の研究者、大学の先生や学生さんに協力いただきましたから、かなりの人数にのぼりますね。
研究成果が出ると、論文を書いて実験グループで責任を持って発表します。だから新元素の命名権は我々実験グループに与えられています。

森本:113番元素の発見を目指すプロジェクトが始まったのは2003年ですが、その前段階として長い研究の歴史があるんです。
元をたどると、まず1985年に、重い元素を作る実験をしようということで、森田先生がGARISを造りました。その後、本格的に新しい元素を合成しようとなったのが2001年。ただ、いきなり113番を作ろうといってもそれは無理です。そこで当時すでに発見されていた108番から112番を合成する実験を再現することから始めて装置の条件などを1つひとつ突き詰めていって、いよいよ113番を作ろう、となったわけです。

DSC_6037.jpg

森本:あるようでないですね(笑)。もちろん、羽場さんは亜鉛からイオンを取り出しやすくする試料を準備する、といったように、それぞれ担当していたことはありますが。

「待ち」の間のモチベーション維持はどうする?

森本:いやいや、ただ実験の結果を何もせずに待っているわけではないですから(笑)。例えばその間に、加治さんは119番以降の新元素発見を目指すためにGARIS-Ⅱの設計開発にあたるなど、実験をやりながら次の準備をしているんです。今使っている装置の改良もありますし。また、各自、113番発見以外の実験もしていますしね。

加治:あまり「待っている」という感覚はありませんでしたね。

森本:確かに1個めが出てくるまでは、「本当に来るのかな?」という思いはあったかもしれません。標的に当てるビームの速度や分離装置の設定はこれで合っているのか? とか。でも、1個出てくれば、1個めの条件を忠実に再現すれば必ず来る。みんな不安はなかったと思いますね。

森本:それはグループで話し合ってですね。すでに108番から112番の元素の合成には成功していましたから、みんななんとなく「こういう条件だろう」とわかっているんです。

森本:条件は絶対に変えちゃダメなんです。今回は約600日実験を行って3個の113番元素が出たわけですが、最初から200日に1個の確率で出るなんてわからないんです。200の出目があってその中に当たりが1つだけあるサイコロをコロコロ転がすようなものですが、100日、200日やって来なかった時、「サイコロがおかしいんじゃないか?」と思って替えたら、目がないサイコロを振り続けることになるかもしれない。当たりがあるサイコロだと思ったら、もう1回当たりが出るまで振り続けるしかないんです。

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森本:裏方的な仕事はもちろんありますよ。例えばビスマスの標的は、薄いカーボンの膜にビスマスを載せてセットするんですが、それも自前で作り、週に一度は交換するんです。そういう地道な作業もシフトを組んで行うのですが、誰1人「こんな仕事はしたくない!」なんていう人はいません。

加治:どの仕事も、それがないと実験が成り立たない大事な仕事ですからね。

森田先生のリーダーシップで風通しの良いチームを作れた

加治:もちろん「新しい元素を見つけたい」というのが一番大きいです。それに向かって、加速器側のメンバーも頑張って、亜鉛ビームをたくさん出せるよう工夫してくるんですね。そうなると、「これだけ加速器側のメンバーが頑張ってくれているんだから我々も頑張らないと」となる。こうしたことでもモチベーションを掻き立てられます。

森本:「受けきれないからビームをちょっと弱めてください」なんて言ったら、実験側の負けを認めることになりますから(笑)

羽場:それはないですね。「これは違うんじゃないか?」と思ったら、当然、意見を言います。そのあたりは、50人近いメンバーをまとめ上げ、風通しの良いチームを作った森田先生のリーダーシップのおかげだと思います。

羽場:科学の世界では、意見がきちんと科学技術的な根拠やデータに基いていて、リーズナブルなものであれば、どんな立場の人が言うことであっても受け入れられます。最終的に目指すゴールは1つですから、明らかに間違った方向に進んでいると思う時は、チームの誰もがしっかり自分の考えを言いますね。

113番元素はどのようなチームだったから発見できた?

森本:チームのメンバーは、たくさんいるわけではありません。メンバーになり得るのは、それぞれが独立した研究者としてしっかりした実力を持っている人です。そうした人たちにきちんと力を発揮してもらえるよう、ある程度各々が自由にやりたいことができる環境を用意しなくてはならないし、一方で、その人たちの能力がチームとしての目標にうまく組み合わさっていけるような状況も作らなくてはならない。この両方ができていれば良いチームになるのだと思います。

羽場:今回の113番元素発見の研究は13年かけてやりましたが、我々はこの研究だけをやっているのではありません。これ以外にも、重い元素の性質を総合的に理解したいという思いがあり、各自がそれぞれ面白いテーマを設定して研究をし、論文を書いて評価されている。それぞれのやりたいことを伸ばしていける環境を作れたのがよかったのではないかと思いますね。「この研究だけに専念しなさい」と言われたら、ついてこなくなる人も出ていたでしょう。

加治:お二人がおっしゃったとおり、「やりたいことをやらせてくれる」ことが一番重要だと思いますね。それと風通しが良いチームで、自分が考えたことに対して親身に相談に乗ってくれるメンバーがいることも大切です。

森本:自分で「これがやりたい」という興味の対象を持っていて、それをしっかりと追求していける人。その上でグループの目標に貢献してくれる人ですね。

羽場:我々が研究している新元素は、まだ何の役に立つか全くわからないものです。しかし理研には、そのような基礎研究を存分にやらせてくれる環境があるし、加速器や分離器をはじめ、施設や設備にも恵まれています。そういうものを使って、純粋な科学的興味を、目を輝かせながら探求したい人に来てほしいです。

加治:目の前で起こっている現象に対して素直に向き合い、そこで何が起きているかについて疑問を持てる人ですね。また、新元素の研究では、事象自体が起こることが稀なので、数少ないチャンスをどのように捉えるかを考える事が大事になってきます。そのために、既存のものを組み合わせてでもいいから、いろんなアプローチを考えられる人がメンバーにいると心強いです。

これからも未報告の新元素の発見を進めていく

森本:119番、120番と、まだ未報告の新元素の発見を、どんどん進めていきたいですね。また全てが新たな挑戦となり、世界的な競争も激しいですが、自信はあります。核図表を埋めていくことで見えてくる新しい世界があるはず。そう信じています。

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(執筆:荒濱一/撮影:尾木司)

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