編集長は会社に来ない? なぜ弁護士ドットコムは月100本もの良記事を作り続けられるのか

編集長は会社に来ない? なぜ弁護士ドットコムは月100本もの良記事を作り続けられるのか
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日本最大級の法律相談ポータルサイト「弁護士ドットコム」。大手法律事務所に勤めていた元榮(もとえ)太一郎氏(現・弁護士ドットコム株式会社代表取締役社長兼CEO)が2005年7月、「専門家をもっと身近に」を経営理念に起業し、同年8月に運営をスタートしました。


弁護士検索・インターネット法律相談・弁護士費用の一括見積り・弁護士に無料相談できるQ&Aサービス「みんなの法律相談」と法的トラブルに見舞われたユーザーを対象としたサービスが、当時のメインコンテンツ。しかし、より多くのユーザーに法律を身近に感じてもらうこと、法的トラブルが起きないよう事前に予防する「予防法務」サービスを提供することを目的に2012年4月、サイトに大きな転機が訪れます。


時事問題や身近な問題を、弁護士が法律的視点からわかりやすく解説する「弁護士ドットコムトピックス」がスタートしました。その2ヶ月後にはYahoo!ニュースの記事提供媒体となり、ヤフトピにも度々取り上げられ、注目を集めるメディアのひとつに成長しています。編集長を務める亀松太郎さん、編集記者を務める山下真史さんに運営の舞台裏について聞きました。

月間10本の記事更新を100本にーー"社外"編集長率いるトピックス編集部の秘密

亀松:12月までは社員1人が他の業務と兼務し、元榮が編集長として監修する形で、月間10本程度の記事を更新していました。新しい取り組みということもあって、スモールスタートを意識して運営していたと思います。

スクリーンショット 2014-06-02 17.58.07.png

亀松:当時は元榮が前年に引き続き編集長を、私が前担当者の代わりを務め、フリー編集者・記者5~6人に協力してもらいながら運営していました。ただ少し変わった体制で、以前は社員が担当していたのですが、僕は業務委託として仕事を請け負っています。社員ではなくフリー編集者という立場です、

基本的にネタの選定や記事の書き方など編集業務全般を任せていただき、2013年8月からは編集長として運営に携わっていますが、カラダは会社に所属していなくて、あくまで外部の人間なんです。

th_IMG_8606.jpg編集長の亀松太郎さん(右)

亀松:一番大きな変化は月間記事本数です。これまで10本程度だったものをだんだん増やしていき、2013年7月に100本にしました。僕が副編集長に就いてから「半年で月間100本体制にします」と元榮と話していたんです。

でも、この記事本数を実現するのには相当なマンパワーが必要で、結構大変なんです(笑)。当時は外部のフリー編集者・記者への依存度が高く、彼らが出産・子育てをしたり、就職したりといった節目のタイミングで、仕事をお願いできなくなってしまったのです。

亀松:はい。外部スタッフ頼みでは厳しいと痛感したんです。やはり編集部内に専任の社員を1人置いて盤石な体制にしたいと思いました。

そこで僕の前職(ニコニコニュース編集長)時代から一緒に仕事をしていた、フリー記者の山下くんに2013年4月から社員として働いてもらうことにしたんです。彼が社内に常駐し、一連の編集業務を担当してくれるおかげで、運営に安定感が出てきましたね。

亀松:まずは「能力の高さ」を重視し、次に「ものの考え方や方向性が同じで、一緒に働き続けられるか」という視点で絞り込んでいます。

弁護士ドットコム編集部はベンチャー企業的な要素が強いため、スタッフの「考え方」はもちろん大事な要素です。一方、現段階で必要なのは記事を書いたり編集したりするスタッフなので、そのような面での「スキル」の高さがとても重要だと感じています。

さらに新しいスタッフを採用するときには、現在のチームにない面を補強してくれたり、おかしなところがあれば指摘してくれるような人材を求めていますね。

編集長がつかまらない? マメな連絡とオンラインツールで徹底カバー

th_IMG_8597.jpg編集記者の山下真史さん

山下:強いていえば、コミュニケーションに時間的コストがかかることです。基本的に亀松さんはオフィスにはおらず外部にいるので、なかなか連絡が取れない日もあります。その日どんな予定が入っているかもわからないので……(笑)。

亀松:僕は普段オフィスに出勤せず、外で仕事をしているんです。その代わりにクラウドサービスを活用して、できる限り密に、リアルタイムにチームメンバーとコミュニケーションしています。

連絡事項はFacebook、ファイル共有はGoogleドライブ、会議にはSkypeなどを使っています。日中はかなり活発にやりとりをしていますね。

山下:外部の記者については、とにかくマメに連絡し合うことを心がけています。きちんと伝わったかどうか確認したり、メールを入れた後で電話をしたりするケースもあります。

亀松:万一トラブルが起きたときには、ひとりで抱え込まずに早めに共有してほしいと伝えています。失敗はどこかで起こるものですが、今後につながる「財産」でもあるので、整理して二度と繰り返さないようにするのみです。

なぜ弁護士ドットコムは良質な記事を月100本も作れるのか?

亀松:編集業務は6段階で行っています。流れをすべてご紹介しましょう。

6段階に及ぶ記事制作の流れ

1)企画会議

毎朝9時30分から行われる会議には、亀松さんもSkypeで参加。それまでに寄せられたネタを選定し、切り口まで落とし込み、毎日5~6本の記事を決定する。

2)導入部分を執筆

記事の約3分の1となる問題提起パート(リード文)を、主に外部のフリー記者に依頼して執筆してもらう。

3)導入部分を編集

編集部で記者が執筆したリード文の事実確認を行い、問題提起をより鋭く調整する。弁護士が答えやすい文章になっているかどうかもチェック。

4)弁護士へコメントを依頼

各事例に詳しい弁護士を探し、弁護士にコメント依頼を打診。OKをもらったらメールに原稿を添付して送り、メールで返信してもらう。2~3日、あるいは1週間など時間的な余裕を持って依頼する。

5)弁護士コメント部分を編集

弁護士のコメントが挿入された原稿を読者が読みやすい形に整え、掲載前原稿を弁護士に確認に出す。

6)公開準備

弁護士の確認がとれたら、入稿・公開作業に入る。


このように6段階に分けて、各段階を分業化しています。極端な場合、別々の6人が6つの段階に分かれて作業することもあります。

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亀松:1つ目の理由は、時間的拘束のないメールのほうが、弁護士も気軽に取材に応じてくれるためです。メールなら仕事の空き時間に対応できます。

2つ目に法的な解説というのは非常に専門的な内容です。記者が聞き書きして一から記事を書くよりも、弁護士に直接書いてもらうほうが正確でしょう。そもそも弁護士は訴状や弁論書など書類を作成する機会がかなり多く、文章を書き慣れていることもあって、メールでの依頼が適していると思います。

とはいえ正確な回答をいただいたとしても、専門的で難しい表現が多く含まれていたり、やや長文だったりする場合もあります。それを読者にとってわかりやすい体裁に整えるのが私たちの役目なんです。

トピックスを開始した当時から現在も、目安は1記事につき1000~1500文字です。私の経験上でも1200文字前後が適量だと感じています。

構成は最初の3分の1は問題提起、残り3分の2は弁護士のコメントですが、これも当時から変えていません。中途半端な記事にはしたくないので、できるだけ弁護士による説明を多く含むようにしていたのです。

「頑張っているオウンドメディア」の評価で終わりにしたくない

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亀松:前職でも感じていたことですが、やはり「双方向性」が一番の魅力だと思います。たとえばニコニコ動画に関しては、視聴者の感想が画面に載って可視化されますが、これは従来のメディアにはない面白さだと感じています。そして、読者の反応をどれだけ意識するかが、Webメディアに求められることでしょう。

一方で、紙はいかに完全なものを読者に出すかという意識が、読者の反応を意識するという気持ちよりも強いです。例えると、Webはチラシを直接手渡すというイメージ。たとえ間違っていたとしても、読者の反応に応じて修正していくことができる。これが面白いなと思うんです。

亀松:弁護士ドットコムというサービスをできるだけたくさんの人に知ってもらい、使ってもらうことです。そのためにKPIとして置いているのは訪問者数。トピックスは弁護士ドットコムという「店」の前で、お客さまを呼びこむために提供している景品のようなもの。あくまで「お店」に連れてくるための施策で、一般ユーザーからの法律相談を増やすための啓蒙活動の一貫だと考えていますね。

亀松:決して現状に満足していません。「“オウンドメディア”の中では頑張ってるね」と評価されることがありますが、オウンドメディアとして終わるつもりはありません(笑)。

オウンドメディアという意識はあまりなくて、個々の記事を作るときには、できるだけ多くの人に読んでもらいたいという意識で作っているんです。

弁護士を始めとする専門家の観点で、これまでのメディアとは異なった切り口で情報配信し、より信頼性を獲得できるメディアにしたいですね。ゆくゆくは日本を代表する「ネットメディア」として認知されるよう長期的な視点に立って育てていきたいと思っています。

(執筆:池田園子/撮影:橋本直己/編集:藤村能光)

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