独自技術で災害を未然に防ぎたい──火山大国日本を見守る「だいち2号」22名のチーム力

独自技術で災害を未然に防ぎたい──火山大国日本を見守る「だいち2号」22名のチーム力
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今も地球の周りをぐるぐると回りながら、私たちの暮らしを支えてくれている陸域観測技術衛星2号「だいち2号」(ALOS-2)。衛星から送られてくるデータが、災害時の状況把握に活かされていることをご存知でしょうか。

24時間体制で活動を監視している火山が47ある火山大国・日本。私たちが安心して暮らすために、どのように「だいち2号」が活用されているのか、JAXAのALOS-2プロジェクトチームのみなさんに、お話を伺いました。(写真左から ALOS-2プロジェクトチーム 大木 真人さん、石野 達哉さん、鈴木 新一さん、勘角 幸弘さん)

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震災をはじめ、箱根、桜島の噴火においても活用

鈴木:例えば、箱根山の例ですね。
ずっとデータを取り続けているので、地面が数cm動いたというのがわかると、「ここはあやしいぞ」ということが見えてきます。

実際に解析したのは国土地理院でしたが、衛星のデータを見ていると、大涌谷の直径200mの非常に狭い範囲で最大6cm程度の隆起が起きていることがわかったと。それまで箱根山が活発に動いているというのは、誰も注目していなかったと聞いています。

他にも驚いたのが、桜島の噴火の兆候です。衛星からわかるのは地面の動きだけですが、国土地理院では別の地上の計測手段や地球物理学的なモデルからいろんな解析をして、地面の下がどうなっているのかを推定したんですね。

「非常に大きな噴火が起きるのではないか」とみんな心配していたのですが、衛星の観測結果と、彼らの解析を組み合わせると、「どうも今回は壊滅的な噴火にはならなさそうだ」ということがわかり、その後噴火警戒レベルが下げられました。

鈴木:「だいち2号」は2006年1月〜2011年5月まで運用された「だいち」の後継機です。前号機の「だいち」は、地表を撮影する装置を多く搭載していたため、4t級の重い衛星になっていました。

国土地理院が提供している1/25000の地図の更新や、地形や建物の変化の記録、資源の探査、災害時の状況把握などをミッションにしていたのですが、いざ運用を開始してみると、災害時の状況把握の優先度が上がっていきました。最後には東日本大震災の際に被災状況の把握に貢献した後、運用を終えました。

衛星には寿命がありますので、次はどうしようかと、いろいろ議論があったのですが、防災の優先度が上がってきたことから、「だいち2号」は電波を使ったレーダセンサでの撮影に特化したものにしようということで、2009年から開発を始め、2014年5月に種子島宇宙センターからH-ⅡAロケットで打ち上げました。

IMG_5533.jpgプロジェクトマネージャ 鈴木 新一さん

鈴木:そうです。専門用語で「Lバンド合成開口レーダ」というのですが、「Lバンド」というのはレーダの波長のことで、他にも長さによってCやXといったものがあります。

Lバンドの長い波長は、“一部が森林や植物を透過して地面まで到達する”という特徴があるんですね。太陽光を使わないので、撮影環境は昼夜も問わず、天候にも左右されません。

日本は国土の約7割が森林に覆われていて、地震や火山活動が非常に多い国ですので、Lバンド合成開口レーダを使って、山体の膨張・収縮や地震前後の地面の動きを細かく見られるのが、非常に役に立ちます。
衛星のデータから、変化する地表の動きを数cm単位の細かさで知ることができるんですよ。

勘角:レーダで撮影するというのは、普通の光学カメラで撮影するイメージとはまったく異なります。

「だいち2号」からは1秒間に2000発くらいの信号を地表に向けて送り続けていて、地面に反射して「だいち2号」に戻ってきたデータを、「だいち2号」のアンテナで受信しています。さらにそのデータを地上に降ろして、地上処理でデジタルの信号に変換して、画像や動画を作っているんです。

IMG_5556.jpgLバンド合成開口レーダ開発担当 勘角 幸弘さん

鈴木:いいえ、前号機の「だいち」、さらにその前の「ふよう1号」にも搭載されていましたが、どんどん性能が上がっています。
どれだけ地表を細かく見られるのかというのを“分解能”と言いますが、前号機の「だいち」が10m四方だったのに対し、「だいち2号」では3m四方以上まで分解能が上がっています。
より細かいものが見えるようになることで、今までは考えられなかったような新しい使い方も出てきていますので、研究を重ねながらさまざまな分野で実用化を目指しているところです。

マネジメントに求められる「速さと正確さの両立」

鈴木:性能を上げるために最先端の技術を入れているので、教科書がないことでしょうか。理論的に推定して、試験や実験を重ねて進めているため、理論と実際がなかなか合わないときには苦労します。

あと、衛星は打ち上げ時期が決まってから、そこに向かってメーカーと一緒に開発をすすめていくのですが、どこかで遅れが生じると、そこが足を引っ張ってしまうので、常にマネジメントしないといけない苦悩もあります。さらに、打ち上げが近づいてくると、本当に時間の余裕がなくて…そんな中でも丁寧にやらないと、重大な問題だと後から取り返しがつかないことになるので、プレッシャーがどんどん高まってくるんです。

鈴木:JAXAには我々のチームだけでなく、いろんな衛星を担当しているチームがありますし、太陽電池の専門家がいたり、GPSの専門家がいたり、といったように、衛星の各機能の研究をしている専門家がいます。
彼らは特定の衛星だけを担当しているわけではないので、豊富な知見を持っているんです。いざトラブルが発生すると、そういった人たちの知見を集めてきて、横並びで推理に役立てています。これはJAXAの強みのひとつですね。

鈴木:私が大事にしているのは、スピード感です。開発フェーズだと、とにかく遅れがどんどん波及することもあり、常に時間とお金と人をコントロールしながら、早く判断して、早く対処することが、非常に大事。運用フェーズでも災害時には、まさに同じです。速さと正確さの両立を常に心がけています。

IMG_5616.jpg現在宇宙を飛んでいる「だいち2号」の1/3レプリカ

災害時には、すべてが時間との闘い

鈴木:今は千葉県の勝浦市にあるJAXAのアンテナと、ノルウェーの北極圏にあるスヴァールバル諸島にある民間のアンテナ基地局と契約してデータを受信しています。

「だいち2号」は1日に地球の周りを約14周するので、その周回に合わせて日本では昼と夜の2回、北極圏はほとんど毎回見られるので、見えるたびに受信しています。

鈴木:実際に衛星と電波を交信するのは勝浦やスヴァールバル諸島の基地局ですが、すべて衛星の管制はつくば宇宙センターの中で行っています。

いざ災害が起きると、見なければいけない場所に合わせて、「だいち2号」の向きを変える必要があります。「こっちを撮ってくれ」と指示を出すんですね。「だいち2号」は毎日少しずつ軌道をずらしながら飛んでいます。日本の基地局が見える範囲は半径1500kmくらいに限られ、北極圏の基地局の上は、毎周回通りますので、「だいち2号」が地球の周りを1周まわる100分くらいに1度は、指示を出す通信をするチャンスがあるというわけです。

鈴木:はい。JAXAでもやっていますし、連携している防災関係の機関に、インターネット経由でデータを渡して、できるところはやってもらっています。例えば、この間の鬼怒川の堤防決壊のときには、JAXAで解析したものを、国土交通省に提供しました。

石野:災害対策基本法という法律に定められている指定行政機関はすべてですが、実際に衛星のデータを普段の業務に活用しているのは10機関くらいですね。主なユーザーは国土交通省や気象庁、国土地理院、防衛省、内閣府などです。

鈴木:そうです。24時間体制です。

石野:災害は夜でも週末でも、関係なく起きますので。指定行政機関では、災害が起きたらすぐに初動が始まりますので、我々もそれに合わせて動かないと、彼らの業務にうまく衛星データを使ってもらえなくなってしまいます。

石野:そうですね。どこを観測して欲しいのかリクエストをいただいて、それがいつできるのかを調整して、実際に衛星を動かします。受信できたデータとともに、過去に取得した同じ条件のデータも合わせて提供することで、変化があるかないかを見られるようにしています。

大木:合成開口レーダのデータというのは、地上に降ろした段階では非常に難しい形になっているので、まずはそれを見やすい画像に加工する必要があるんです。画像を目で見て判断して、さらに見ただけではわからない数cm単位の地表の動きを解析していきます。

IMG_5588.jpg解析・研究担当 大木 真人さん

石野:観測してから1時間後くらいにはユーザーが利用できる形に処理をしたデータとしてお渡しできるようにしています。

口永良部島の噴火のときは、9:59に噴火してすぐに、気象庁から口永良部島のデータが欲しいと連絡が入りました。それから昼の観測タイミングに衛星へ指令を送るのが間に合ったので、12:53に口永良部島を観測することができ、その1時間後にデータを出すことができました。

鈴木:はい。要請があったらタイムリーにデータを取るというのが一歩目で、取得した後にはデータを迅速に出さないといけません。さらに、ユーザーのみなさんが使いやすいようにそこから分析をして、何が見えるかという情報も一緒に出さないといけません。データの取得から解析・解釈も含めて、すべてが時間との闘いです。

「だいち2号」のチーム力

鈴木:私が所属するプロジェクトチームは画像の製造現場で6名、営業担当である衛星利用運用センターの防災担当ラインが10名、あと解析・研究をする地球観測研究センターが6名ですね。「だいち2号」には防災以外の利用方法もありますので、防災に限れば22名のチームということになります。

鈴木:いいえ、私と勘角は同じ部署なので近くにいますが、他の部署の場所はバラバラです。石野のいる衛星利用運用センターは、営業部隊として官公庁に足しげく通うのが任務なので、オフィスが御茶ノ水の方にあります。
いざ災害が起きれば、電話とメールで連絡をとりながら、迅速に必要な情報を出すというひとつの目標に向かって、チームで連携プレーをしています。

石野:それもありますが、「だいち2号」は基本計画通りにかっちりと運用しているだけでなく、我々営業部隊が関係省庁からのニーズを聞きながら、随時計画に反映するということを常々やっています。それは、いざ災害が起きてから「こんな画像が欲しい」と新しいデータを取ろうとしても、それまでに同じ条件のデータを取っていなかったら、災害前後での比較ができないので、使いにくくなってしまうからです。

先々のことを見据えながら、定期的に関係省庁と意見交換を行い、それを計画にどう反映しようか、という打ち合わせをチーム内でしていますので、場所は違いますが、普段からチーム内でも密に連絡を取り合いながら動いています。

IMG_5564700.jpg衛星利用運用センター 石野 達哉さん

鈴木:災害はいろんな場所で起きますし、「火山の噴火」や「地震」とひとことで言っても、毎回規模や現象がまったく異なりますので、事例の蓄積はとても重要です。それぞれの災害に対応した後に、「今回の課題は何で、次はこうしていこう」という反省会のようなものは必ず行っていて、事例毎に一番良いやり方はどれだったのかというのを常に見いだすようにしています。

過去にどんな対応をしたかというのはExcelなどでも残していますし、結果はWebサイトにすべて残っていますので、新しい災害が起きた時には、過去の事例を参照しながら対処法を考えています。

石野:災害が起きた時には、何時に何が起きて、誰が何をしたというのをすべて記録するクロノロジーというものを書いていくので、どこにボトルネックがあったかというのを毎回洗い出して、次に災害が起きた時にはそうならないよう、次にどう対処をすれば良いのか、検討しています。

また、災害が発生していないときは、関連省庁が行っている訓練のシナリオに、我々も参加させてもらって、「うまくデータを伝送できるか」「どうすれば少しでもミスなく時間を短縮できるか」など、いざ起きたときに困らないよう、マニュアルの見直しを行っています。

日本独自の技術を活かしながら、衛星を防災に役立てていきたい

鈴木:「だいち2号」に搭載されているLバンド合成開口レーダは、3世代にわたって日本独自で培ってきた技術です。最近、他国もこの良さに目覚めて、自分たちもやりたいという国が出てきているようですが、今までのノウハウや知見を活かして、世界をリードしていきたいと思っています。

また、衛星の高性能化によって、これまでは災害の後の状況把握にしか活用できていなかったのが、次第に災害中や災害前にも活用できそうになってきたので、これをもっと進めて、本当の意味での防災、予防という意味での防災にも、役立てていきたいです。

鈴木:努力はしているのですが、我々JAXAがこうしたことをやっているのを一般の人に知られていないと言われるので、もっと知ってもらえるようにしていかないといけないですね(笑)

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(執筆:野本纏花/撮影:橋本直己

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