「無理です」という言葉は飛躍を止める――筋電義手「handiii」の挑戦

「無理です」という言葉は飛躍を止める――筋電義手「handiii」の挑戦
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なるべく人間の手に似せようと作られてきた従来の義手は、1本150万円ほどと高額であることが珍しくありません。そんな"ないものをあるように見せる"これまでのアプローチではなく、手がないというマイナスをプラスに変えようと試みるのが、exiiiが開発する筋電義手「handiii」です。

2014年8月に開催された「ジェームス ダイソン アワード 2013」では、エントリーされた世界650作品の中で見事2位を受賞。その後も、「Maker Faire Tokyo」や「Gugen 2013」などに出展し、その受賞歴を増やしています。2015年中に、開発に協力してくれる義手の2名の協力者が、handiiiをつけて生活する姿を世の中に見せたい。その実現のために、handiiiは現在クラウドファンディングサービスの「kibidango」で資金調達中です。

企業勤めをしていた専門分野が異なる3人が共にスタートアップを立ち上げ、その領域を超えてお互いを補い合うことでチーム力を強化しています。exiiiの近藤玄大さん(CEO)、山浦博志さん(CTO)、小西哲哉さん(CCO)にお話を伺いました。

IMG_1119.jpg exiiiの3人。左から小西哲哉さん、近藤玄大さん、山浦博志さん。

健常者ができなかったことを可能にする筋電義手

近藤:handiiiは、手を失われた方が、筋肉の信号を使って想い通りに手を動かすことができる筋電義手です。この技術自体は新しいものではなくて、戦前に研究されていたような文献が残っているほど、実は歴史がある分野です。ただ、なかなか技術改良が進まず、未だに150万円もする義手が多いのが現状です。handiiiは、3Dプリンターを使うことで価格帯を安くし、さらに見た目もかっこいい義手を目指しています。

近藤:これまでは製造設備の用意や、製造周りの人件費などがかさんで結果的に製品が高くなってしまっていました。3Dプリンターなら、製品を量産する際に必要な初期投資もいらないですし、義手をつける方の腕の形に合わせて1つ1つ作っても単価が変わりません。デザインに関しても、本当の手と間違えてしまうほどリアルに再現するのではなく、3Dプリンターを活用して機械だけで出せるようなデザインを追求することでコストを抑えることができると考えています。

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小西:もちろん、すごくリアルな義手を必要とする人もいらっしゃいます。だけど、手がないことを自分のアイデンティティの一つとして受け入れている方もいて、それなら、そんな方がファッションの一部として義手を使えるようにしたいと考えました。腕時計やスニーカー、眼鏡なんかと同じような形で使ってもらう。だから、デザイン面でも人の手の形に寄せるのではなく、後付けにするからこそできるような義手を目指しています。

小西:今後の展望ですが、例えば、指先にマイクとイヤホンを入れて、義手を使って電話ができるとか。指先にライトをつけてほしいという声もあります。そうすると、今まで健常者が絶対にできなかったことが、handiiiではできるようになるんですよ。マイナスをゼロに近づけるためのものだった義手を、プラスの方にまで持って行ける。ちょっとベクトルが違うかもしれないけれど、なんか飛び越えた存在になれるというか。

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「無理です」といったら飛躍が終わる

近藤:常に3ヶ月くらい先に何をするかを考えています。今はハードウェア業界やスタートアップ向けのイベントが頻繁に開催されているので、短期のゴール設定がしやすい。色々悩んでいるうちに次のイベントが近づいて来て、もうやるしかない、みたいな状況はあります。考えながら動くし、動きながら考えるっていうことを繰り返している感じです。荒削りですけれど、だんだんと僕たちのチームの形が見つかって来ているかな。

山浦:それはありますね。僕らはけっこう直近に目を奪われがちなので、近藤が長い目で見る部分をやってくれることでいいバランスが取れているかもしれないですね。

近藤:チームの目標を最終的に決断することはCEOとしての自分の役目だと思っています。だから、Maker Faireへの出展もけっこう強引に決めて、山浦にはだいぶ苦労をかけましたけど無事に出展することができました。別に細かい詰めを僕がやっているわけではなくて、それぞれの専門分野や責任範囲で、各々が積極的に動いている感じですね。

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山浦:やればやるほど、やらなきゃいけないことが増えるので、やっぱり3人では足りなくて。CEOが営業にいってしまうと、ソフトウェア部分を補うために自分の専門外ですけど私が取り組んでみる。そうすると、今度は私が本来やっているメカの部分を、小西が中の構造まで含めてデザインすることでカバーしてくれる。自分の専門以外のところも少しずつ増やしながら、丸が少しずつ大きくなっていく感じです。最近になって、そういう補い方ができるようになってきました。

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山浦:スタートアップを始めて変わったなと思うのが、無理を無理と思うかの線引きです。会社で働いていて、無理なことを「できます」と言ってしまうと全部自分に振ってきます。頑張ったところで、評価が上がるわけでも、給与が増えるわけでもない。でも、スタートアップで「無理」と言うことは飛躍が止まることを意味します。時間もお金も底をついて、会社の存続自体が危うくなってしまう。そうか、無理の線引きを外さなきゃいけないんだって気がつきました。

小西:うんうん。

山浦:最近のhandiiiの開発で考えても、昔なら「やる」と言わなかったことも、やってみようと言ってますし。できることをベースに考えるのではなくて、できないことをできるに変えて行くことを考える。

山浦:本当にそれですね。「自分ごと感」ですね。会社にいて物を作っていて、それが自分の担当製品であっても、人生を賭けようとまでは思えないと思うんです。そこにはどうしても意識の差が出てしまう。一歩、無理ができるのも自分ごとだからで。

小西:デザイナーって、どちらかというと設計に無理を言う側の人間なんです。でも、大企業だと部屋が違うから、無理を言ってからの意思決定や調整にすごく時間がかかってしまって。でも、僕らは狭い部屋で3人で一緒にやっているので、どこまでが本当に無理で、どこまでなら可能かをギリギリまで確かめながら進められる。

近藤:自分ごとっていうことを言い換えると、大企業の頃は自分には責任がなくて。何が起こっても文句を言えるし、給料は必ず入って来る。今は、給与もまだもらえていなくて貯金を切り崩してやっていて。締め切りも決まっていて、どんどんライフポイントが減って行く状況の中で、よくも悪くも一挙手一投足がファウンダー3人の責任です。だから、意識というよりも、環境や構造からして自分ごとですよね。

小西:自分がやらなかったら終了だもんね。

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「使いたい」の一言でコミットすることを決意

近藤:諸説ありますが、「example of exchangeable extremety」という「交換可能な四肢の一例」という表現から来ています。僕たちが掲げるコンセプトが、「気軽な選択肢」といって、スニーカーや腕時計のように義手もユーザーの個性に応じて楽しめるものにしたいというものです。「ex」が3つ並んでいて、チームも3人なので「i」を3つ並べて「exiii」になりました。

近藤:もともと、僕たちはソニーとパナソニックで働いていたんですね。まだ在職中の2013年6月くらいに、本業とは別に趣味で物づくりをしたいという話で盛り上がって。僕の大学時代の研究テーマでもあった筋電義手で、2013年7月に開催されたジェイムス ダイソン アワードのコンテストに3人で応募したのが始まりです。そこから、Maker Faire Tokyo 2014の展示会など、目標を決めては試作のクオリティーを上げる活動をする中でだんだん楽しくなっていきました。2014年の6月頃に会社を辞めて、exiiiを立ち上げました。

近藤:僕とCTOの山浦は大学の研究室が同じで、山浦と小西は前職の同期なので、山浦を中心にそれぞれ知り合った感じですね。大企業に勤めて3年も経つと、他のこともしたくなってくるので、そのタイミングがちょうど合いました。デザインができる小西、ハードウェア技術の山浦、ソフトウェア開発の僕という感じで役割分担がすごく明確だったのでやりやすかったですね。

小西:いや、もう全然いいですねって。むしろ前々から、山浦からロボットハンドを作ろうと思ってるという話を聞いていて。その後、会社の喫煙所で話していたら、ダイソンアワード出すために近藤と2人で既に開発してるって聞いて。ずるい、俺も俺もって参加しました(笑)。基本的に物を作ることが好きだし、動くものを作るのがすごく好きなので面白そうだなと思いましたね。

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近藤:極めつけは、森川さんという、実際に手をなくされた方から実用化してほしいという希望の声をいただいたことです。それまでもコンテストで賞をもらったり、メディアで取り上げてもらったりしていましたが、実際の当事者から喜んでもらったのは初めてで。従来の義手を作っている方達からは保守的な声も聞かれて不安もありましたが、ユーザーが使いたいと言ってくれたことで決意が固まりました。その瞬間に、3人とも会社を辞めてもいいと思ったと思います。

近藤:今は、森川さんと、もう1人BeautyANDSnowという名前で歌手をされている生まれつき片手のない方に協力してもらっています。森川さんはパラグライダーが趣味の方なので、究極的にはhandiiiをつけて空を飛んでほしいですし、BeautyANDSnowさんにはhandiiiを使って表現力豊かに歌ってほしい。ただ単に物を握るだけじゃなく、もっとアクティブに義手を使って暮らしている絵を世界に見せたいですね。

欲しいのは、思わず手が動いちゃう人

近藤:スタートアップはスピード感を持ってどんどん発信して、協力者や理解者を募っていかなきゃいけないと思っています。実際、イベントなどに出ることで、3人だけでは思いつかないようなアイディアがもらえたり、ベンチャーで既に成功しているような先輩方がアドバイスをくれたりもします。CEOをやるのも僕は初めてで、お金集めなど悩むことは尽きないですが、先輩方の背中を見て何とか前進しています。

山浦:技術の面で考えると、今はソフトとメカはいますけど、電気ってまた一つすごく深い分野なので、そういう専門家がいてくれるといいなと思います。お互い領域をカバーしながら広げていけそうな気がしますね。

小西:僕はバックオフィスの人がいたらいいなと思いますね。今は、そういう人がいない分、近藤さんがソフトウェアとそれを見ていて大変だから。僕が手伝っても、抜けているから逆にやらかしちゃいそうなので(笑)。そこが得意な人がいたらいいなと思いますね。

近藤:まあ、両方必要かな。新たに迎え入れるメンバーの判断基準は、スキルというよりも、どれだけ僕たちのビジョンに共感してくれるかですね。温度感を共有できるエンジニアとかバックオフィスの人がもう1人、2人いてくれたら、できることが10倍になるかなって気がします。

近藤:うーん、キャラはかぶらない方がいいなって思います。性格もそうですけど、役割分担という意味でも。今のチームに、もう1人メカエンジニアとかデザイナーが来ても、逆にチームのパフォーマンスが下がってしまうと思うんです。あとは、女性のメンバーも欲しいですね。今のhandiiiは男っぽいデザインですけど、これから女性用もデザインしていく上でチーム内に相談できる人がいたらいいですね。

山浦:エンジニア目線でいうと、やっぱり自分でものを作るのが好きな人が絶対いいなって思いますね。なんやかんや言いたい人ってけっこう多いんですけど、とりあえず作るみたいな人って意外と少ないのかなって。実際に買って来た部品からパッと形にしてみちゃうとか。それができるだけで、まず最初の会話のスタート地点がだいぶ共通のところから入れるんですね。目で見られるものがあるので。

小西:夏休みの工作が好きな人ね。

山浦:それそれ。ポンって作れて目の前に物があると、分かり合えるためのコストってすごく下がるんです。最初にまずベースを持ってこられる人っていうのがすごくいいんじゃないかなと思います。この3人が実際そうなので。

近藤:エンジニアに限らず、例えば、特許を書いてきちゃうとか、そういう形でもいいよね。思わず手が動いちゃうみたいな。

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社会全体の障害に対する見方を変えたい

近藤:僕は、1人の障害者を助けたいというよりも、社会全体の障害に対する見方を変えたいと昔から思っています。やっぱり、義手とかをしている人を見ると可哀想だと思ってしまうじゃないですか。それを、「かっこいい」に変えたいんです。Maker Faireで協力者の森川さんがデモしたら、その一瞬ですけど世界が違ったんですね。来場者がみんな、40歳のおじさんに握手を求めて、もうヒーローになっているわけですよ。クオリティーはまだまだですけど、そうやって社会が変わる手応えを感じられたので、今後、それを浸透させていきたいです。

山浦:技術的な観点では、今、目指しているのが機能アップというよりは、長時間使っても安定的に動くことです。展示会のデモなど僕たちの監視下だけでなく、色んなことが起こる外の環境にも問題なく機能するレベルに持って行く。3Dプリンターで作って量産するというやり方自体が珍しいですし、動くパーツが多ければ多いほど故障も増えてくるので。そういった点を含めて、いかに完成度高く仕上げるかというところに注力しています。

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近藤:そうですね。2014年11月末から、「kibidango」というクラウドファンディングのウェブサイトで開発資金を募っていまして。1月19日までのプロジェクトで、ありがたいことに2014年末時点で既に200万円以上が集まりました。とはいえ、ハードウェアの開発にはものすごくお金がかかるので、正直、あり過ぎて困るということはなくて。kibidangoで集めた資金を使って、handiiiをより信頼性の高いものに仕上げて行こうと考えています。まずは、2015年中に2人の方がhandiiiをつけて生活する姿を見せることが目標です。

近藤:会社を辞める前は、handiiiで聖火ランナーをやってほしいみたいなことを言って、そこがメディアに使われたりしていました。でも、今はそんな余裕ないですね(笑)。2020年に、とにかく生きていたいって感じです。あまり遠過ぎて考えられないですし、とにかく目の前のことをやるのみです。

山浦:社会に対して何かしたいというより、その頃には自分が変化していたいと思いますね。義手にまつわる世界全部を変えたいというよりは、まずは自分がこういうものを作って、1人の人に喜んでもらいたい。そうすると、これまで自分本位だった技術の使い方が、人に役立てることを喜べる人間になるかもなと。2020年になる頃には、それが当然のように染み付いているような人間になれたら幸せなんだろうなと思います。

近藤:今は義手だけしか考えられないですね。ただ、会社のビジョンは、「ロボティクスとデザインで日常を楽しく」なので、別に義手に固執するつもりはないです。それこそ、障害分野である必要もなくて。3人で1つ、すごくかっこいいロボットが作れるチームってなかなかいないと思うので、そこの強みを活かしながら、義手が実用化した先にはいろんなものを作って行きたいと思います。

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(取材:2014年12月/執筆:三橋ゆか里/撮影:橋本直己/編集:椋田亜砂美)

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