義足の選手が、健常者の記録を超える日──各自の得意領域にフォーカスする Xiborgのチームワーク

義足の選手が、健常者の記録を超える日──各自の得意領域にフォーカスする Xiborgのチームワーク
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今年はリオのオリンピックが開催され、2020年には東京でのオリンピックの開催も控えている。オリンピックの開催に合わせて注目が高まるのがパラリンピックの開催だ。


1960年から開催されているパラリンピックも、近年その捉え方が変化し始めている。近いうちに、義足を付けて競技に出場する選手が、健常者の選手よりも高い記録を出すのではないか、と注目されているのだ。


義足を装着することで身体を拡張し、健常者を超える”スーパーヒューマン”となるなら、それは身体の部位を欠損している人に対して私たちが抱く認識を変えうる。この未知なる領域に挑戦しているのが、義足エンジニアの遠藤 謙氏が率いるXiborg(サイボーグ)のチームだ。


Xiborgは、バイオメカニクスを考慮した競技用義足の開発、義足に合わせた選手育成、ロボット義足の開発などを行っている。未踏の領域に踏み出す一歩を生む、チームワークの秘訣を伺った。(写真左から井上 友綱さん、遠藤 謙さん、田原 哲雄さん)

義足の選手が、健常者の選手の記録を超える日を目指して

オスカー・ピストリウスという選手を知っているだろうか。両足義足のスプリンターであり、”ブレードランナー”の異名を持つアスリートだ。2012年、両足が義足の陸上競技選手として初めて、ロンドンオリンピックへの出場を果たしている。パラリンピックではなく「オリンピック」である。

遠藤氏は彼の姿を見て「競技用義足の選手が、健常者の選手の記録を超えるとしたら、すごいことだ」と感銘を受けたという。遠藤氏は偉業が達成されたときの、障害者へのメッセージ性の強さ、社会に与えうるインパクトの大きさに魅了された。

遠藤氏は、マサチューセッツ工科大学メディアラボバイオメカニクスグループにて、人間の身体能力の解析や下腿義足の開発に関わり、2012年に博士号を取得。日本に帰国後、共に義足の開発に取り組む仲間を探した。

遠藤:自分はエンジニアなので、走ることに詳しい人の協力が必要でした。コーチや選手、義足メーカーとも話をしていったのですが大抵は話を聞いてもらえませんでした。その中で最初に話に乗ってくれたのが、為末 大でした。

IMG_2730.jpg株式会社 Xiborg 代表取締役 遠藤 謙さん

陸上に詳しい為末氏に加えて、カーボン成形を手がけるRDSが実家のデザイナーの杉原 行里氏の3人で2014年5月にXiborgを創業した。

オーバーラップしながら互いの苦手領域をカバーするチームに

Xiborgが開発しているのは、バイオメカニクスを考慮した競技用義足の開発とロボット義足の開発だ。創業当時は、どちらのプロダクトも遠藤氏が開発を行いつつ、会社の運営も行っていた。

ハードウェアの開発は広範な知識とスキルが要求される。遠藤氏が1人で開発を行っている時期は、なかなか開発は加速しなかった。ロボット義足の開発に変化が起きたのが、現在、最高技術責任者を務める田原 哲雄氏がチームに加わったタイミングだった。

IMG_2732.jpg株式会社 Xiborg 最高技術責任者 田原 哲雄さん

遠藤:2000年頃から、田原さんとはずっとプロジェクトを一緒にやっていました。田原さんが働いていたクウジットと、私の所属しているソニーコンピュータサイエンス研究所で何か一緒にできないか、という話になり、田原さんがXiborgに派遣されてきたんです。私は田原さんがどんな技術を持っているのかも知っていましたし、田原さんもXiborgでロボット義足をやりたいということで、その後正式にXiborgに入ることになりました。

田原氏がXiborgに入って、開発の体制は大きく強化された。ロボットの開発は、「メカ」「電気」「ソフトウェア」の3つの掛け合わせで行われる。遠藤氏は全般的にカバーしながらも、メカに強いエンジニアだった。

遠藤:田原さんが入る前は、パーツを買って組み合わせて動かしてきました。本当は、自分たちのプロダクト用に最適化してパーツを開発するのが望ましい。ただ、私がそれをやろうとすると、時間がかかってしまう。田原さんは、システムの開発も得意なので、最適なパーツを作り出すこともできるんです。

田原氏は遠藤氏と同様に横断的に専門性を持ちながら、遠藤氏が得意ではない領域を得意としている。2人はお互い何をやっているかを理解しながら、足りないところを埋めるように開発が可能になった

田原:回路やソフトウェアの部分は、専用に作るとシンプルにできます。余分な回路もなくなるので、メンテナンスもしやすい。今は、開発したモジュールの一部を切り出して売ることはできないか、といったことも考えています。

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2人のエンジニアが互いの強みを発揮し、Xiborgは現在ロボット義足のプロトタイプ「Shoebill」を開発している。「Shoebill」 は、2016年10月にスイス・チューリヒで開催される義体競技会「サイバスロン(Cybathlon)」にも出場を果たしている。

アスリートファーストで作られる競技用義足

ロボット義足と並行してXiborgが開発を進めているのが競技用の義足だ。アスリートが身につけ、競技に出場することになる競技用義足の開発には、アスリートの協力が不可欠だ。

Xiborgも、開発の初期の段階からアスリートがチームの一員として携わり、密にコミュニケーションをとってきた。だが、エンジニアとアスリートは考え方やコミュニケーションの仕方が異なる。そのため、為末氏がXiborgとアスリートとの橋渡しを担当していた。

異なるジャンルのプロフェッショナル同士が、同じプロジェクトに取り組んでいくためには、仲介役が必要となる。だが、それも最初の話。Xiborgが試作を繰り返し、アスリートとのコミュニケーションを重ねるうちに、関係性が築かれていき、今では為末氏以外のXiborgのメンバーも、アスリートとの信頼関係が構築できている。

アスリートの協力に加えて、競技用義足を開発するXiborgにとって大きな影響をもたらしたのは、東レや東レ・カーボンマジックの協力を得られたことだ。

遠藤:カーボンをどう成形していくかという知識は、ノウハウの固まりなんです。東レの協力を得られるまでは、私が計算をしていましたが、やはりわからないことは多い。カーボン成形のノウハウを提供してもらえるようになったことで、製品の開発は進みました

Xiborgは、佐藤圭太選手、春田純選手、池田樹生選手ら3人のトップアスリートたちと東レ、そしてボランティアスタッフの協力を得て、リオオリンピックの前に、競技用義足「Xiborg Genesis(サイボーグ ジェネシス)」を製品化するに至った。

IMG_2777.jpgリオでは佐藤選手がXiborg Genesisをつけて走り、4×100mリレーでは見事銅メダルを獲得した。

得意な領域に集中できるチームの体制

ロボット義足に競技用義足など、ハードウェアを開発する会社だからといって、エンジニアリング以外の業務がなくなるわけではない。エンジニアリング領域以外をサポートするのが、2016年1月にXiborg執行役に就任した井上 友綱氏だ。

IMG_2896.jpg株式会社 Xiborg 執行役 井上 友綱さん

井上氏は、2014年にスポーツ界のさらなる発展を目指すTHE CAMPという会社を創業。2015年からは予防医療を掲げたフィットネスクラブ「Data Fitness」を運営するメディカルフィットネスラボラトリーの取締役最高執行責任者に就任していた人物。

井上:元々は、為末の仕事を手伝いっていた関係で、Xiborgに関わるようになりました。いくつかの会社を見ていましたが、Xiborgが一番貢献できそうだと考え、Xiborgに入りました。

Xiborgに入った井上氏は、オペレーション周りを担当。会社の実務的な業務を担当している。井上氏が入る前は、遠藤氏が担当していた業務だ。

井上:実務を遠藤が担当していて、エンジニアリングに時間が割けない状態でした。他の業務を減らし、エンジニアリングに能力を発揮できると、プロダクトの開発速度が上がるはずだと感じました。僕は開発はできないので、それ以外のところを担当しています。

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遠藤:井上が入って、かなり業務が楽になりました。本来やりたかったことに対して割ける時間も増え、プロダクトのクオリティも上がりました。

共感でつながる社外のメンバーたち

現在のXiborgのコアメンバーは4人。だが、同社のプロダクトを磨いていくためには、大勢の人々の協力が必要になる。

遠藤:社員は4人ですが、アスリート、カーボン成形を担当する東レ、ボランティアで支えてくださる義肢装具士、弁護士、栄養士、鍼灸師など、様々な方と協働してプロジェクトを進めています

ボランティアスタッフを集めた慰労会等は井上氏が担当として開催している。当初は「ボランティアは続かないんじゃないか」という懸念も抱いていたそうだが、継続して関わるボランティアメンバーも多いという。

遠藤:Xiborgが開発している競技用義足は、人の顔が見えるモノづくりです。ボランティアで手伝ってくださっている方々にも、アスリートが頑張っている姿が見える。それがモチベーションにつながっていると思います。それ以上に、「健常者のアスリートより速く走る義足を作る」という目標に共感してくれていることが大きいかもしれません。

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社内のメンバーだけではなく、社外のメンバーとも協力してプロジェクトを進めていく上で、夢を見られるような大きなビジョンを描き、共有するのはかなり重要なポイントとなりそうだ。

2020年までにXiborgが目指すこと

2016年、Xiborgは競技用義足を発表し、ロボット義足のプロトタイプを開発中であることを明らかにした。彼らが東京オリンピックが開催される2020年までに目指していることは一体なんなのだろうか。

遠藤:まず、競技用義足については、世界のハイエンドなアスリートたちとも共に開発していきたいと考えています。日本はまだまだ義足を付けて走る人たちの数が少なく、レベルも高くない。より高いレベルの義足を開発できるよう、世界のトップクラスの選手とも一緒に開発していきたい。競技用義足の裾野を広げることにも取り組みたいですね。子どもや初心者でも義足を使って走れるような環境を整えていきたい。

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競技用義足にとっての一大イベントがリオオリンピックであるように、ロボット用義足にとっても、大きなイベントが存在している。2020年までに製品化を目標とするXiborgチームが出場したのが、2016年10月にスイス・チューリヒで開催された義体オリンピック「サイバスロン(Cybathlon)」だ。

遠藤:サイバスロンは、販売に至るまでの登竜門のひとつ。研究というよりも、実践寄りのイベントです。こうした大会直前には開発がかなり進みますし、実際に使うシーンを見られることでモノづくりは進みます。ロボット義足のほうが高い技術が求められ、製品化までの道のりが遠い。2020年というひとつの区切りまでに、製品レベルのものを作るのが目標です。

サイバスロンやオリンピックの他にも、陸上の国際大会も控えている。大きなイベントごとに合わせて、Xiborgのチームはモチベーションを高め、開発を進めていくことだろう。

メガネが社会に馴染んだように、義足も社会になじませたい」、そう遠藤氏は語る。Xiborgが2020年までにどれだけ人の意識をデザインできるかが楽しみだ。

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(執筆:モリ ジュンヤ/撮影:橋本直己

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